テーマ:「軍事報復でなく国連中心の解決、憲法9条もつ日本の進路を考える」

講師:松竹伸幸(日本共産党政策委員会)

【復元版】 2001年10月16日 公開学習会

 日本共産党の政策委員会の人で、外交・安保問題の第一人者、松竹伸幸さんに来てもらいました。2001年9月11日のアメリカでの同時多発テロを受けて、どうしたら平和解決ができるか、展望を語ってもらいました。みなさん、ぜひ読んでみてください!(文責は民青駒場班にあります。)

1、はじめに

 私は大学に入ったのが1973年で、ベトナム戦争集結のパリ協定が結ばれましたが、私たちの頃は単純でした。ベトナム戦争は、ベトナムの人が独立国家をつくろうとしてフランスが介入、ついでアメリカがベトナムに大軍をおくりました。誰がみてもベトナムの側が正義の戦争で、アメリカが侵略していることはわかりやすかったんです。

 今回たたかわれている戦争はそういう単純なものではありません。ビンラディンがテロというやってはならない行為をおこなった、それに対してアメリカが報復攻撃をしかけているんです。この問題全体の性格をおさえて対案をよく考える必要があります。

2、国際社会はテロを理由にした自衛権の行使は認めてこなかった

 テロ問題というのは、戦後の国際政治の中で大変むずかしい問題でした。このことをおさえておくことがこの問題を考える上で大事なのではじめにお話ししておきたいと思います。

 戦後、パレスチナ人のイスラエルに対するテロ行為が問題になってきました。パレスチナ国家の建設が認められていたのに現実はパレスチナはイスラエルの占領下におかれます。それに対してパレスチナのテロ行為がおこなわれました。それに対してイスラエルが自衛権の発動だといって攻撃をおこないました。ヨルダンやレバノンにパレスチナの人が住んでいたのでイスラエルは、ヨルダンやレバノンなどにも攻撃を繰り返しました。しかし、イスラエルの自衛権をかかげた武力行使は国際社会で否定され、国連でもたびたび安保理がひらかれてイスラエルの行動は自衛権の発動としては正当化できないと採択してきました。自衛権というのは国家がある国に対して、武力攻撃をしてきたときに、反撃として認められている権利のことです。パレスチナの人々は、私的なグループが私的に入手できる手段でテロ行為をおこなってきたので、それに対するイスラエルの攻撃は自衛権で正当化できるような行為ではないとされてきたのです。

 80年代にテロの標的としてアメリカが主に標的になるようになりました。86年に西ドイツのディスコで爆破事件がありました。アメリカは、「リビアがおこなった。武力攻撃にあたる。次もおこなわる危険性がある。」と主張し、リビアの国家が関与したテロ行為だとしてリビアを空爆しました。アメリカがやった行動だから、アメリカが拒否権をもつ安保理としては非難決議はあげられませんでしたが、国連総会はアメリカの自衛権の主張は認められないとして、アメリカのリビア空爆を批判する決議を採択しました。テロ行為に対して自衛権で反撃するとやってきましたが、そういうやり方でやってはだめだというのが国際社会の意思だったんです。

3、いかなる理由があってもテロは許されないという考え方の確立

 テロは重大な犯罪です。テロに対して自衛権の行使がだめなら、この犯罪はどうするのかということが問われてきます。1972年にPLOのグループがミュンヘンオリンピックを襲撃してイスラエルの選手を襲撃することがありました。こういうテロ行為が許されるのはおかしいという世論が広がり、国連としてテロを禁止する条約をつくろうという動きが生まれました。60年代まではハイジャックをとりまる条約はできたが、テロ行為を裁くものはなかったんです。そこでテロを禁止する条約を国連総会に提案しようという動きが72年に生まれたのですが、結局、提案はされませんでした。非同盟諸国や社会主義を名乗る国が強く反対して、国連総会に上程もできなかったんです。

 今から思えば、なんでそんなことが条約にならないのか思うでしょうが、理由として、当時問題になっていたのがパレスチナの人のテロ行為だったという点があります。当時の国際社会では、国をつくる権利を奪われた人のテロは、犯罪とは性格がちがうのではないか、という議論が根強くありました。そういうパレスチナの人の行為を制限する条約については反発が強く上程ができなくておわったのでした。非同盟諸国だけでなく、1972年の事件の容疑者が77年にフランスにいることが判明して、西ドイツとイスラエルの捜査当局が引き渡しを要求しますが、フランスは政治犯だ、刑法犯でないといって出国措置をとって、堂々と出国させるということがありました。

 そういう状況がありましたが、この事件でのフランスの措置は国際社会で問題になりました。そして、国際社会として、テロの容疑者がいる場合は、テロの容疑がある国に引き渡すか、引き渡さないなら、自分の国で裁くことになりました。テロは許されない行為であり、裁判で裁かなければならない行為であることがはっきりしてきたんです。

 国際社会で政治的な目的をもったテロ行為をどうみるか、という議論がずいぶんありました。日本共産党はこの点の主張ははっきりさせてきました。例えば、78年にパレスチナのテログループがイスラエルのバスをジャックしてたくさんのイスラエルの人が亡くなりました。イスラエルはそれを口実にレバノンに攻撃しました。日本共産党はイスラエルの武力行使を批判すると同時に、やむにやまれぬ気持ちでおこなうテロについても批判しました。パレスチナのたたかいは大義のあるたたかいでイスラエルが非をおわなきゃいけないのははっきりしているんです。ですが、パレスチナの人のたたかいに大義があるからといってたたかいの手段としてテロ行為に訴えていいということにはなりません。パレスチナのたたかいが本当に大きな国際世論の支持をえて前進する、そしてイスラエルをおいつめていくためには、テロというやりかたではだめで、本当に多くの人の支持をえられる手段でたたかってこそパレスチナの人の大義が実現するということをうちだしました。

 日本共産党がこの見解をうちだした時、日本共産党と異なる立場の人はたくさんいました。例えば、PLOの東京事務所の人は、日本共産党に対して批判の声をあげ、10年間ぐらい関係がなくなることもありました。私たちは本当にパレスチナの人の願いを実現するためにそういう立場をうちだしてきたんです。そういう見地が90年代になって国際的なテロ関係の条約にもりこまれました。最初のきっかけになったのは94年に国連総会が、「テロリズムの根絶に関する決議」を採択したことです。どんな政治的な目的があっても、あるいは民族的な宗教的な理由があっても、それはテロ行為を正当化する理由にはなりえない、ということが決議でうたわれました。3年後の爆弾テロ防止条約の中でもそういう考え方がもりこまれました。テロはどんな政治的目的があっても法によって裁くんだという大きな流れはできてきたんです。

4、国連を中心とした裁きのルールの確立

 国際社会が相手にしてきたテロの性格はかわってきました。パレスチナの人々のテロというのは国家を奪われた個人あるいはグループが、個人が入手できる手段でおこなうものでした。80年代に入ってから、国家が関与して、資金や訓練基地も提供しておこなうテロというのが問題になってきます。その一番の例がウサマ・ビンラディンのアルカイダです。その起源は、ソ連が79年にアフガニスタンに軍事介入して、抵抗闘争がおき、それに対してアメリカがビンラディンなどに支援をおこなったことです。だから普通の私的なテロ集団ではなくて、軍事組織としてきたえあげていく過程がありました。以前のパレスチナの人たちのテロとは性格が異なってくるんです。だから国際社会もこうしたテロにどう対処するかという点では真剣な探求をしてきました。

 1988年のイギリスのロッカビリー村でおきたパンアメリカン航空の爆破事件は270名の人がなくなる空前のテロ事件でした。テロ事件の容疑者としてリビアの諜報機関の職員がイギリスの捜査機関によって訴追されました。国家の関与が疑われるテロでした。その時に国際社会がとった態度というのはこれまでのテロ事件への態度とは違って、初めて、「国際の平和と安全に対する脅威」として国連の安保理の決議で決めたんです。ある国が被害を受けたということでもなく地域的な問題でもなく、国際的な世界中の平和と安全にかかわる重大問題だとし、テロの性格がかわってきているという国際社会の認識を反映しているんです。だから、国連が中心になってテロの容疑者を裁かなければならないということになり、イギリスでの容疑者の起訴をうけて、国連安保理も容疑者の引き渡しをリビアに求めることを決定しました。さらにリビアに経済制裁をくわえました。9年間かかりましたが、結局リビアがひきわたしに応じて裁判がやられることになりました。

 国際社会はテロの容疑者は法で裁くというルールを確立しましたが、条約の文面にしただけでなく、このルールが実際に行為としておこなわれたことが、具体的実例として大変重要でした。だから98年のケニアとタンザニアのアメリカ大使館爆破事件でも、アメリカの捜査当局が起訴し、国連安保理がビンラディンの引き渡しをタリバン政権に要求しました。タリバン政権が引き渡しに応じないものだから二度にわたって経済制裁をしました。一回目は、タリバン政権に対して武器の輸出を禁止する。二回目の決議ではビンラディンとそのグループの資産を凍結するという経済制裁の決議を決定して、それをせまってきました。そういう状況がごく最近まで生まれてきました。

5、テロを許さない国際的団結が決定的に大事

 今回の9・11のテロ事件に入っていきますが、多くの方々からだされる疑問として、リビアが引き渡すのに9年かかかった、ケニアの事件でも2年たってもでてこないではないかというものがあります。「なまぬるいから、結局引き渡し実現できないんだ」というのが小泉首相とアメリカの立場です。しかし強調したいことは、テロを絶対許してはならない、ビンラディンを引き渡さなければならない、という世論が今ほど高まったことはないということです。

 98年の事件でも、引き渡しを99年になってから国連として要求しましたが、経済制裁の決議は去年(2000年)の12月に採択し、今年の1月に発効したところです。その取り決めでは、30日以内(今年=2001年2月18日まで)に、各国がどういう措置をやったのか、ちゃんと国連でいったことをやったのか、安保理に報告しなければなりませんでした。ところが、この2月18日の期限までに安保理に報告を出したのは46カ国だけでした。国連加盟国の4分の1しかこたえようとしなかったんです。日本だって期限までにだしませんでした。みなさんも、今回の9・11の事件ほどテロの問題を身近に感じたこともないと思います。今回のテロ事件の直前まで、ケニア・タンザニアの件で国連安保理に協力しようというのはこれぐらいしかないという状況でした。

 実はテロを根絶していく、あるいはテロの容疑者を法の裁きにかけるためには、こういう状況が一番よくないんです。テロの行為者は、各国でテロについて考え方がちがう、テロを容認する、あるいは見逃す、そういう世界の制度の違いを利用して、なるべく自分たちのテログループがいやすい、訓練しやすい、資金をつくりやすい、そういう国で大きくなっていきます。だから、テロの容疑者をひきわたす、テロを根絶しようと思えば、世界の国々がどんな政治的な目的があっても、自分の国でテロの容疑者がいることはゆるさなれない、資金をつくることも許さない、そういう容疑者いれば引き渡す、そういう姿勢をとらないと解決しないんです。

 今回の問題でいえば、アルカイダの組織はイスラムの国々に多く存在しているのだから、どれだけイスラムの国々がそういう立場にたてるのかが決定的なことになってきます。そういう観点からすると、アメリカの軍事行動がはじまるまではアメリカのテロをゆるさない世論がイスラム諸国を含めておおっていました。タリバンと国交をもっていたサウジ、アラブ首長国が国交を断交する。唯一国交をもっていたパキスタンが何度もタリバンにビンラディンの引き渡しを要求する。46カ国しか協力しなかった状況から、まわりのすべての国々がテロを許さないという見地にたって、ビンラディンの引き渡しとテロの根絶をしようという、戦後の世界の中で一番の機会をえたというのが、アメリカの軍事攻撃を開始するまでの状況でした。

 私たちがアメリカの軍事攻撃に反対している最大の理由は、新たな犠牲者を広げるということと同時に、テロをなくすうえで一番必要な国際社会の団結をこわすものだからです。アメリカの軍事行動が始まって、インドネシアやマレーシアがアメリカの軍事行動に反対する声明をだしています。せっかく築いた団結がくずされかねない状況がうまれています。テロの実行者が無実の6000人の命を奪ったように、アメリカの報復的な軍事行動が、無実の人々に対してむけられ、民間の人を殺す事態が生まれています。エジプトのムバラク大統領は「アメリカがそういうことをやればテロリストと同じ所に身をおくことになる」と言いましたが、これは大変あたっています。テロは許されないという気持ちをもっているがアメリカも同じ様なことをやっているということになれば、そんな国のためにテロの容疑者を何としても捕まえようという気持ちはしぼんでしまいます。だから、国連中心の解決というのがどうしても必要だというのが私たちの立場です。

 アメリカが軍事報復をやったためにアメリカ対イスラムという構図になってしまっていますが、これは仕方がないことです。今度の問題はアメリカが報復したからといって解決するものではありません。すべての国々が自分の国に容疑者をおかない、裁判で解決するという気持ちになってこそ解決します。だから国連が中心になってタリバン政権に対しても容疑者の引き渡しを要求する、要求にタリバンが応じなければ、国連として国際社会が一致した経済制裁をおこなう、経済制裁をつくしてもだめならば、国連としての国連憲章42条にもとづく必要最低限の軍事的措置も理論的にはありうるというのが私たちの立場です。

 テロに対する世界的な団結を保持しながらやっていこうと思えばそういう手段しかありません。テロの容疑者としてビンラディンの引き渡しを求める、アフガニスタンに対して経済制裁を加えるのに反対する国はありません。世界が団結してタリバン政権に対して理をつくして要求していく。アメリカ対タリバン政権でなく国際社会がタリバン政権にもとめていく。それでもタリバン政権が応じないならば、国際社会が放置していいのだろうか。放置しないで、やっぱり必要な措置を取ってでも裁判をし、裁かなければならない。その際、国際社会の団結がたもたれるようなやり方でやっていかなければならない。私たちの提案の中心にあるのは国際社会の団結を保持しながらやっていくという考えです。私たちは理をつくしてもタリバン政権が引き渡さず国際社会が措置をとるときに、世界的な団結がこわれていくことがあってはならないということでこういうやり方を提唱しています。

6、憲法9条をもつ日本の進路は?

 憲法9条をもつ日本の進路について考えます。日本が中東の問題、テロの問題でできる仕事は大きいです。日本は憲法9条があったから、中東の紛争に軍事的にかかわってこなかった大変希少な国です。

 実は湾岸戦争の後、各国がイラクに武器を輸出して軍事大国にしてしまったことを反省して、国連で、武器の輸出に歯止めをかけなければいけないという議論がなされました。武器の輸出入規制まではまとまりきりませんでしたが、どの国がどれぐらい武器を輸出入しているのかは公開するという制度を決めました。しかし国連総会で決議するときに、大国はみんなイラクに対して莫大な武器を輸出していて提案する資格がありませんでした。日本に提案してもらうしかないということで海部総理が提案しました。日本は憲法9条があって戦力をもってはいけないということになっているから、ましてや外国に輸出をしてはいけないということで武器輸出三原則を決め、武器は輸出しないといことでやってきたんです。イラクにも中東にも武器を輸出してこなかったんです。

 テロの問題でもアメリカが武器を輸出して強大化させてきました。今度は北部同盟に対してロシアなどが武器の輸出をしてきました。そういうやり方ではなく、この問題を根本的に解決するには武器の輸出入の規制が必要です。兵力を中東に対して一度も送らなかった日本は特殊な位置にあります。武器の使用を禁止し、戦力をもたないと決めた国だからやらなければいけないということがあるんです。このような、アフガニスタンへのアメリカの報復戦争に参戦する法案ができれば、憲法9条をもっている国として道義的立場を失ってしまいます。廃案に全力をつくしたいと思います。

*********** Q&A ***********

アフガニスタンへの経済制裁の効果はありますか

⇒経済制裁は今のアフガニスタンの現状に配慮しておこなわれなければなりませんが、国際社会が一致した対応をとれば、タリバン政権内にも現時点でも亀裂はあるが、動揺が広がり、引き渡さざるをえなくなると考えています。例えば、先ほどのべた武器輸出を禁止するという経済制裁は有効です。タリバンの兵器はもともと、ソ連がおいていったものやアメリカが支援したものですが、最近はパキスタンが支援をおこなってきていました。こういうものが禁止されるとタリバンにも大きな影響を与えます。

軍事的措置まで言う理由はどうしてですか

⇒私たちは容疑者のひきわたしは、軍事的措置なしに可能だと考えていますが、もし経済制裁で応じなかった場合に国際社会として、ビンラディンを放置するということにはなりません。その際には、(これは理論的可能性ですが、)国連としてビンラディンを裁判にかけるための必要な措置をとることになります。

軍事的措置とはどういうものを想定しているのですか

⇒もし、経済制裁で引き渡しに応じなかった場合には、ビンラディンを裁判にかけるのに必要最低限の軍事的措置として、例えば警察力的なものが考えられます。アメリカが今、アフガニスタンにミサイルを撃ち込んでいますが、このようなものは、当然、許されるものではありません。

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