テーマ:「マスコミ報道のあり方を考える」

講師:宮坂一男(『しんぶん赤旗』論説委員会責任者)

【復元版】 2003年7月10日(木)班会

 『しんぶん赤旗』論説委員会責任者の宮坂一男さんに来ていただき、お話をしていただきました。内容の大要を復元します。聞けなかった人も、聞いた人も、ぜひ読んでみて下さい!

1、最近のマスメディア報道〜イラク報道と有事法制を例に

●新聞を読み解く力が大事

 こんにちは。『しんぶん赤旗』論説委員会責任者の宮坂一男です。みなさんがいつも使うメディアは新聞が多いんでしょうか。それともインターネットでしょうか。テレビでしょうか。最近は紙の新聞はいらないと断られることが多いですね。

 今日(7月10日)の新聞をここに持ってきました。各紙ほとんどが長崎で12歳の少年が4歳の男児を殺害した記事がトップになっています。『日経』と『赤旗』は違いますね。『日経』は何が起こってもだいたい経済記事がトップです。『赤旗』は国立大学法人法成立の記事がトップです。長崎の記事をトップにしようかという議論もあったんですが、今後の日本にとって重大なのは法人化の方だろうということで、それをトップ記事にしました。

 このように、どう記事を扱うかは各新聞の姿勢が現れます。また、同じ長崎の事件でも新聞によって記事の書き方が違います。『朝日』と『毎日』は犯人の少年の試験の点数が何点だったかまで1面に書いていますね。『読売』と『赤旗』にはそれは1面には書いてありません。少年の試験の点数が何点だったかなどということは、少年事件の本質とは関係のないことです。プライバシーの問題からいって、このように少年を特定できうるような個人情報を書くべきではありません。少年事件の報道としては正しくないやり方です。

 新聞によってかなり差があるということですが、私たちは、それが伝えられるべき情報か、自分なりに見分けることが大事です。新聞だけではなく、テレビやインターネットも同じです。テレビは見ているうちにどんどん情報が流れていってしまいます。インターネットは大量の情報から重要な情報と重要ではない情報を見分けるのが難しいです。新聞なら紙面構成で重要さがわかりますが、インターネットのニュースサイトは記事が時間順に出てくるだけです。

 今、メディア・リテラシーということが言われていますけれども、マスコミの報道の中身をうのみにするのではなく自分で見分ける力を身につけよう、ということですね。

●新聞の違いがハッキリ現れたのが戦争報道

 【表】を見て下さい。横浜に新聞資料博物館というのがあって、今日(7月10日)までイラク戦争の報道展がありました。新聞各紙の報道を、戦争の経過に従って展示してありました。特徴的なのは、新聞によってイラク戦争に対する態度が違うということです。

 【表】は、(1)ブッシュ大統領のイラクへの最後通告前後の各紙の社説と、(2)4・9バグダッド陥落直後の各紙の社説です。

【表】
(1)ブッシュ大統領のイラクへの最後通告前後の各紙の社説(2003年3月19日〜22日)

 
『朝日』
『読売』
『毎日』
『日経』
『産経』
3・19 この戦争を憂える
ブッシュ氏の最後通告
イラク攻撃
小泉首相の決断を支持する
首相支持表明
その理由をなぜ語らない
新決議なしで動き出すイラク攻撃 妥当な独裁排除の決断
20
イラク戦争
かくも割に合わぬ
開戦秒読み
責任は“決議愚弄”のイラクにある
党首討論
開戦支持の論拠まだ分からぬ
米国支持の政府方針はやむをえない  
21
宗教戦争にするな
イラク攻撃開始
米攻撃開始
イラク戦争の早期終結を望む
イラク開戦
一刻も早く破壊の終わりを
戦争の早期終結で犠牲は最小限に 12年戦争終焉の始まり
22
米国支持
これが本当の同盟か
イラク戦争
小泉首相の「米支持決断は正しい」
     

(2)4・9バグダッド陥落直後の各紙の社説(2003年4月10日〜11日)

 
『朝日』
『読売』
『毎日』
『日経』
『産経』
4・10 政権崩壊
試練はこれから始まる
政権崩壊
治安回復との同時進行が必要だ
フセイン政権
独裁者が見放されていく
フセイン政権崩壊後の課題は何か バグダッド陥落
12年戦争の終結に価値
11
フセイン後のイラク
破壊の跡に何を築くか
イラク戦争
正しかった米英の歴史的決断
フセイン体制崩壊
復興と平和の解決を急げ
   

 ブッシュ大統領の最後通告直後の社説では、『朝日』が戦争に一応批判的、『読売』・『日経』・『産経』は戦争支持ですね。4・9バグダッド陥落直後は、『読売』が当然戦争支持です。『毎日』は態度が若干揺れています。

 有事法制については、『朝日』が今年の4月27日のちょうど統一地方選が終わった日に、社説で、与党は民主党の修正に応じて早く成立させろと書いています。去年は『朝日』は最終的には有事法制に批判的だったわけで、去年と態度が完全に切り替わっていますね。

 新聞によって態度が際だつこと自体は必ずしも悪いとは言えません。新聞は言論機関ですから。ただ、このことについて問題が2つあります。

 一つは、日本は新聞大国です。『読売』は1000万部で、読者が多いです。そこが戦争に賛成すると、多くの読者の意識を反映しているのかという問題が生じます。世論の7〜8割が戦争反対の時、『読売』が戦争賛成の旗をふるのは普通の姿ではありません。

 もう一つ、新聞が本当に真実を伝えているのかという問題があります。さっき言ったイラク戦争の報道展では、戦争が始まったときの報道、戦局が進むときの報道、戦争が終わったときの報道、などの展示がありましたが、反戦運動をまとめた展示はなかったです。これは、日本の新聞が反戦運動をまともに報道しなかったからです。明治公園の何万人もの集会とか、渋谷のデモとか、社会面の隅っこにしか取り上げませんでした。新聞が事実を事実として伝えてこなかったのは間違いありません。

 また、今回のアメリカ・イギリスのイラク戦争を無法な侵略戦争だと報道したのは『赤旗』だけでした。『朝日』はせいぜい「侵攻」、『読売』は「進攻」と書いただけで、侵略戦争という事実を言葉としても伝えなかったのです。このように、新聞が国民の意識を反映したのかという点では落第ですね。

2、戦争をあおっただけでなく反省がない

 今回ほど戦争報道の検証が活発になっていることはありません。ただ、非常に特徴的なのは、各紙、戦争を正しく伝えなかったことに対する反省がないということです。『新聞研究』という雑誌で、『読売』の国際部長が、「(『読売』が戦争の)全体像を最もバランス良く伝えた」というふうに自分たちの報道は間違っていなかったと書いています。客観的に見て、『読売』が一番正しい報道をしているとは思わないでしょう。『読売』は戦争支持だと思われるでしょう。米軍がどこまで攻めたか、何人死んだかという「戦局報道」の検証はありますが、反戦運動がどうだったかという検証がないからこうなるんです。戦争報道全体の反省がないんです。

 最も「戦局報道」的だったという点では、NHKが一番批判されました。戦後の今も反省がありません。NHKは自分たちが出版している雑誌『放送研究と調査』5月号で、「全体として湾岸戦争の教訓を生かして(自分たちは)報道の使命を果たしたと思われる」と書いています。

 これが日本のマスコミの特徴なんです。なぜこうなるのでしょうか。私は、2つ指摘したいと思います。1つ目は、商業主義の問題、2つ目は、今の新聞の持っている歴史的な限界です。

3、なぜか(1)商業主義

●激烈な部数獲得競争

 読売新聞社が出している週刊誌の『Yomiuri Weekly』では、『朝日』と『毎日』などのメディアの反戦運動の「無責任さ」を批判しています。この雑誌はいかに自分たちが戦争をあおったかをウリにしているんです。自分たちの報道が正しかったと自慢しているんです。

 また、『産経』が「社説検証」という特集を組み、『朝日』・『毎日』の反戦の姿勢を批判し、日米同盟を守ったのは『読売』と『産経』だと自慢しました。

 去年、中公新書の『読売vs朝日』の広告を読売新聞社が『朝日』の読者が多い地域の世帯に配布しました。自分たちの報道の正しさを誇って宣伝しているんです。

 『朝日』はそれに対抗して各世帯にビラを配布しました。去年の8〜10月頃ですね。それによると、『朝日』は『読売』が言うほど左じゃない、『朝日』はバランスをとって載せている、『毎日』の方が反戦運動を載せて偏っている、と、うちは真ん中だという言い訳の内容なんですね。ひどい内容です。彼らは自分たちの部数を増やすことだけしか考えていないんです。

 もともと、戦争のたびごとに新聞は大きくなったと言われています。最初は西南戦争のときに部数が伸びました。日清戦争のときには『読売』と『朝日』が戦争報道の競争をして、『読売』が部数を伸ばしました。戦争という極限状況において、どこが一番早く報道するかという情報合戦で新聞が普及していったのです。最近だと、9・11のときから激烈な部数獲得合戦で、その影響が悪い方に悪い方に行っているんです。

●商業主義が典型的に現れたアメリカのメディア事情

 今度の戦争で典型的だったのはアメリカでした。アメリカは国土が広く、日本のようには新聞の部数は多くないですから、新聞よりテレビの方が影響が大きいです。湾岸戦争ではCNN、今回のイラク戦争ではFOXが役割を果たしました。FOXというのは、アメリカのメディアを支配しているマードックという巨大資本がつくったメディアです。FOXがブッシュ政権と一体になって戦争を進めていったんです。米軍の最前線には必ずFOXがいたと言われています。アメリカのテレビは、ウォルト・ディズニーがABC、また、AOLというインターネットの企業がCNNを牛耳っていると言われます。巨大資本がメディアを持っているんです。商業主義という点では日本よりすごいです。そこが情報を独占して伝えることが世論形成にすごく影響を与えます。だから、イラク戦争でも、アメリカの世論だけが世界世論とかけ離れる状況が生まれたのです。NHKも「事実と乖離するアメリカの現状認識」と批判しています。アメリカ国内では事実が伝えられていないという指摘です。

 これは日本だって起こりうるし、部分的には起こっています。この商業主義が、メディアが本当のことを伝えない原因となっています。

 もっと単純な例があります。日本の新聞の売り上げは広告依存率が高いんです。サラ金・健康食品・宗教団体などの広告を載せると、それに対する批判ができなくなります。大企業の広告をとっていると、大企業批判がしにくいんですね。

4、なぜか(2)歴史と体質

●戦後の再出発と今日

 もう一つは、日本の新聞は歴史的な限界を持っているということです。

 日本の新聞は、戦前、絶対主義的天皇制の下でこぞって戦争を支持しました。戦後、日本の新聞はアメリカの干渉で全部戦前の会社がそのまま残ってしまいました。『毎日新聞』だけは一回倒産しましたけど。ドイツの新聞社は戦後全部解散してなくなっているんです。

 戦後、『読売』の正力(しょうりき)が戦犯追及を解除されて復活しました。今もなべつね(渡辺恒雄)なんかにその体制が続いていますね。

 日本の自民党もそうですが、マスコミ界も戦争の反省が不徹底なんです。新聞も、1960年に安保改定反対を最初言いましたが、1960年の安保闘争の時、「7社声明」で、安保反対運動をやめるべきだと安保賛成を表明しました。このように、戦後は安保賛成・大企業支持の枠内でやってきていますから、こういう体制的な弱点で、正面切って戦争に反対できないんです。

 今回、『朝日』はやっと今年の2月17日の社説でイラク戦争反対を言いましたが、その1回だけです。批判はするが反対はなかなかできない。煮え切らない態度を続けているんです。限界があるんです。

 有事法制はむしろ『朝日』が率先して成立をあおりました。こういう構造的な弱点があるんです。もちろんマスコミの中で頑張っている人もいるし、外から批判する人もいますが、なかなか国民の立場にたちきれていません。

5、対極に位置する『しんぶん赤旗』〜その魅力は

 そういう日本のマスコミの対極が『しんぶん赤旗』です。今年の2月1日で75周年を迎えました。戦前からあの侵略戦争に命がけで反対してきた新聞です。戦前・戦後を通じて他の新聞と比較にならない特徴を持っています。大企業やアメリカに遠慮がなく、何物をも恐れません。

 日本の新聞には菊タブー、鶴タブー、解同タブーなど、色々なタブーがあります。菊タブーとは天皇制に対するタブー、鶴タブーとは創価学会に対するタブー、解同タブーというのは関西の人はよく知っているんじゃないかと思いますが、部落解放同盟という団体が色々暴力的なことをやってきたんですね。それについてのタブーです。日本の新聞はこれらについてきちんと批判できないという構造的弱点があるんですが、『赤旗』はそういうタブーには全く屈していません。『赤旗』は日本の新聞の構造からは対極なんです。企業の広告主にも遠慮がありません。

 僕も『赤旗』に入って30年になります。わりと何でも自由に書けますよ。他のマスコミの人から「『赤旗』はいいよな。うちは書きたいけど書けないことがあるんだ」とうらやましがられますね。

 なかなか日本のマスコミの競争は大変なんで、『赤旗』も広げていかないと勝てないという苦労があるんですよ。『赤旗』は1万9000号にもうちょっとです。『赤旗』の値打ちはイラク戦争や有事法制のたたかいでも示されたと思います。『赤旗』を読んでいただくと同時に、広めていただきたいと思います。

6、現実政治に切りこみ、日本と世界を読み解くメディアとして欠かせない『しんぶん赤旗』

 今の大学1年生は84〜85年生まれぐらいですか。戦後40年経ってから生まれているんですね。60年安保も遠い昔ですね。みなさんの世代には、侵略戦争に反対した新聞といってもあまりピンとこないかもしれませんね。今の時期ものすごく幸せだと思うのは、戦後60年もいろんなことが続き、今まで当たり前だと思っていたことが今問い直されている時期だということです。今度のイラク戦争で、こんなにアメリカ言いなりでいいのかということに気づいた人は多いのではないでしょうか。

 今年1月の『毎日新聞』では安保見直しが半分もいました。日米安保が当たり前だと思っていたのが、今問われているんです。ちょっと待って、こんなにアメリカ言いなりでいいのか、ということが国民的に問われています。問い直すチャンスが広がっているときです。日本総研の寺島実郎さんも、もともと三井物産にいた人ですが、イラク戦争後に、日米関係を見直した方がいいと言っています。

 90年代の不況で、ちょっと待ってくれよ、こんなことが続いていいのか、大企業がもうかるのが優先でいいのか、国民の暮らしや日本経済に良くないんじゃないか、と感じられ始めています。ソニーはリストラして大儲けして逆に株が下がりましたね。「ソニーショック」と言われています。

 今の日本のあり方を根本的に見直す面白い時期に来ていると思います。僕が学生だった60〜70年代は学生運動で盛り上がった時代でした。その時代も確かに面白かったんですが、80〜90年代はしょうもなかったですね。21世紀に入ってイラク戦争後の今の方がみなさんはいい時期に生きていると思います。

 みなさんは物心ついたときはソ連はもうなかったんですよね。僕らの時は資本主義にこだわらない社会を考えようと言っても、じゃあソ連みたいにするのかと言われて話が進まなかったんです。今の時期は、もうソ連もないし、資本主義を乗り越えた未来を自由に考えられる時期です。そういう意味では、物事を根本的に考える条件が整っている時代に来ていると思います。それを考えられる大きな材料が日本共産党の新しい綱領案だし、毎日の『赤旗』です。自分の頭で考えて、世の中を読み解いてほしいと思います。綱領改定案がこの時期に出たのもタイムリーですね。『しんぶん赤旗』もなくてはならない新聞なので、ぜひ読んでほしいと思います。

 それでは、何か質問があったらどうぞ出して下さい。

*********** Q&A ***********

●宮坂さんは、『しんぶん赤旗』の論説委員会の責任者をされているということですが、論説委員会というのはどういう仕事をされているんですか。

 論説委員会は新聞の社説なんかを書いていますね。『赤旗』では「社説」ではなく「主張」という欄になりますけれども。テレビには放送法の制約で論説委員会はないんです。かわりに解説委員会があって、様々な問題について解説をするという形になっています。NHKでもよくニュース番組に解説委員が出てきますよね。

●他の新聞は記者の原稿がデスクにあがっても採用されないことが多いと聞きます。どういうふうに報道の内容を統制しているんですか。

 新聞は組織的に作っていますから、記者の書いた原稿はそのままは採用されません。若い記者が国民の目線で記事を書きたいと思っても、まず書かせてもらえません。誰かの談話をとってきたりとかの仕事の方が多いですね。

 あと、実際書けなくされている記者が多いですね。新聞社の労働組合はどこも弱くなっています。新聞労連という労働組合がありますが、『読売』・『日経』では、編集の職場の人間はほとんど組合に入っていません。組合の委員長席が空席の時期も結構ありました。そういうなかで頑張るのも大事ですね。

●政府からメディアに圧力はかかっているんですか。

 かかっています。ものすごいです。目に見えてこれはダメだよという圧力もあるし、メディアの人を政府の審議会などに取り込むというやり方もあります。この審議会に取り込むというやり方は定着していますね。例えば、小選挙区制導入についての選挙制度審議会には全部のメディアが代表を送りました。政府の税制調査会にも同様です。知らず知らずのうちにメディアが誘導されているんですね。

 直接的な圧力としては、個人情報保護法とか人権擁護法でメディア規制が狙われています。

 裁判でメディアによる人権侵害に対する罰金が100万円から500万円ぐらいにアップしました。メディアが報道によって人権侵害をするのはメディア自身の責任ですけれども、しかし罰金が上がったことによって報道の内容を自粛することになっていきます。

 メディアが規制されてつぶされるというより、規制されるということで自主規制してしまうという悪循環になっているんです。

 以上で私の話を終わります。今日はどうもありがとうございました。

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