テーマ:「介護保険から社会保障を考える

講師:小池晃(日本共産党参議院議員)

【要旨】 2000年10月17日 公開学習会

 昨年(1999年)4月から、介護保険が始まりました。現場においては様々な問題が発生しており、連日テレビなどでも取り上げられています。介護保険をはじめとした社会保障の問題は、親の介護や自分自身の健康など、私たちの将来に関わる問題です。また、社会保障をどのようにしていくかという問題は、今後の日本社会のあり方を考える上でも、重要な意味をもつ問題です。(講師のお話を再構成。文責は民青駒場班にあります。)

1、保険制度全体の危機

 現在日本の不況による保険収入の減少は保険制度全体を危機的状態にしています。年金制度では今年始めて支出が収入を上回りました。医療保険や失業保険も赤字となっています。不景気による労働者の危機は保険料の納入を困難にし、保険制度の危機につながるのです。

 これに対して政府のやろうとしているのは、社会保障の切り捨てや消費税増税などによる国民への負担増を中心とする財政再建です。しかし、国民への負担増は消費を冷え込ませ、不景気からの脱出を困難にし、悪循環へとつながる政策です。新しく発足した介護保険に対する政府の姿勢も、国の財政支出を減らしていくというものであるため、現在様々な矛盾が起こっています。

2、介護保険の矛盾点

 現在の介護保険制度の下でいくつかの矛盾が出てきています。介護を受けるために要介護認定というのが必要となったのですが、実態を正しく反映しないコンピューターによる判定で、これまで介護を受けていた人でも介護保険の対象外とされてしまうケースが出てきています。

 また、介護サービスを受けると費用の1割を利用者が負担しなければならず、利用料が払えなくて必要な介護が受けられなくなった人が増えています。

 施設や人員などの基盤整備も遅れています。政府は基盤整備についてはコムスンなどの営利企業を頼りにしていますが、現実には利用者の減少により全国の拠点を4割閉鎖するなどのリストラをすすめているという状態です。民間中心ではもうかるところ、特に都市部にしか基盤整備が進まないのです。

 また、要介護度に応じた6段階の認定のそれぞれの段階で、保険のきく限度額が設定されていることも利用者にとっての大きな障害となっています。

 そして最大の矛盾は、8割近くが住民税非課税者である65歳以上の人に対して一律に保険料を負担させているということです。住民税を払えない低所得の人から保険料を取って彼らの生活を圧迫するというのは社会保障としては本末転倒です。

3、矛盾解決への提言

 現在の介護保険制度の抱えている様々な矛盾は国庫支出の削減、国の社会保障に対する責任放棄からきています。今までは介護費用の2分の1を国庫で負担し、4分の1を自治体が、残りの4分の1を保険料でまかなっていましたが、介護保険制度では、国庫負担を4分の1に減らし、保険料負担を2分の1に増やしています。日本共産党は、介護保険の財源構成にメスをいれ、少なくとも国庫負担を2分の1に引き上げることを提案してきました。これにより高齢者の8割近くを占める住民税非課税者の保険料・利用料を免除することが出来ます。

 また基盤整備も民間依存型ではなく公的サービスを基本に据えることで利用者の必要性にあったものとしていく必要があります。

 この財源の確保は今の政府の税金の使い方を根本的に転換することで十分可能となります。国と地方を合わせて公共事業に50兆円、社会保障に20兆円という世界に類を見ない逆転した財政構造から抜け出し、社会保障を基本とする財政構造へと抜本的に改革することで介護保険を国民にとってよりよい制度としていく道が開けてくるのです。

「高齢者の実態に、政治を変えないと、と実感。」(参加者の感想より)

  • 介護保険がどういうふうに問題なのか、いまいちよくわかっていなかったが、最大の問題が、なんと国が制度を新しくするのに、国庫負担を減らそうとしていることなのだと聞いて、納得した。この問題は目に見えて自民党政治のおかしさが弱者を苦しめることにつながるので、本当にこういう政治は早く転換しないと……と思う。

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