テーマ:「今日の教育改革を問う」

講師:藤森毅(日本共産党政策委員会)

【要旨】 2000年 公開学習会

 社会や教育のゆがみはその世代世代に強く刻印します。「17歳」とマスメディアで言われ、次から次へと事件が起きていますが、これを自分たちの世代の問題として考える必要があります。事件を起こしたり、社会からはみ出したりする人たちと私たちの間に、垣根はありません。事件を起こす人が悪い人で、起こさない人がいい人という関係ではないのです。(講師のお話を再構成。文責は民青駒場班にあります。)

1、「学力の危機」の広がり

 近年、「学力の危機」「学びからの逃避」と言われる状況が広がり、マスコミなどでも大きく取り上げられています。20数年学校現場を歩き続けた作家の吉岡忍さんはアエラで、「ひしひし感じたのは、学校がますます子供たちを引きつけられなくなっている」ことだ、と言っています。

 文部省(当時)調査でも、授業がわからない人が増えています。授業がわかる子は、中学2年生で半分にいかず、高校になると3人に1人しかわかっていません。また、学力の国際比較をおこなうと、日本は成績はいいが勉強はずば抜けて嫌いという結果が出ています。日本の子供は病的な状態にあるのです。

2、学校教育のゆがみ 競争の教育

 子供の学びの世界を荒廃させた大きな原因は、日本の異常な「競争教育」にあります。その背景には、できる子、できない子を選抜する考え方があります。1960年代、人的能力開発論という考え方を政府はとり、経済発展のためには教育投資で優秀な人材(子供の5〜6%)を確保するのが大事で、それを中・高で探す必要があるとされたのです。ここから、日本独特の競争教育のシステムがつくられていきました。

 子供になんで勉強するのと聞くと、「高校にはいるため」とか、「大学にはいるため」とか、上の学校に行くために勉強するということになる。相当従順な人でも、中学校・高校では成績は抜群だが勉強を嫌いになります。勉強そのものの魅力、学ぶことそのものの醍醐味や面白さが子供たちを引きつけていかないとこの問題は解決しません。

3、自民党の「教育改革」の行きづまり

 今後、自民党はどうしようとしているのか。結論から言うと、なかなかの行きづまりにあります。

 これまで文部省(当時)は、競争が激化して、できない人間が劣等感をもったときに、学力の見方を変えるという方向で対応してきました。「関心・意欲・態度」を評価するという新学力観も、わかったかどうかをわきに置いて、子供たちの関心や意欲を評価してやれば、できない子も、俺も点が高いんだと救われるのではないか、というもくろみで導入されました。

 その次にやってきたのが新学習指導要領です。詰め込み詰め込みというのなら、「ゆとり」で教育内容を切り捨てようということで、教育内容の間引きが行われました。例えば、小数・分数のところで、小数点以下二桁以上の足し算・引き算は教えないといいます。だから円周率は3.14ではない。3で計算するという。ものすごい混乱が起きるのです。

 さらに、国民の義務としての教育を彼らが打ち出しているのは危険です。この間の政府の報告では、「義務として強制する教育」という考えが強まっています。先頃話題になった教育改革国民会議で、奉仕活動の義務化というのがありましたが、それを強く主張した曾野綾子さんは、教育は強制だという考え方です。

4、学校教育の抜本的改革

 今大切なことは、すべての子供たちに基礎的な学力を保障し、子供たちが学校で大事にされる、将来の主権者として生きていく力を身につけられるようにすることです。そのためには、日本の教育システムをただす必要があります。

 入学希望者は必ずどこかの高校に入学できる高校入試改革をはじめ、この競争教育のシステムを抜本的に改める必要があります。また、学習指導要領の押しつけをやめさせ、学校の現場が創意工夫が発揮できるようにするのが大事です。そのためにも条件整備が大事で、30人学級の実現は当面すぐに必要です。

5、社会と文化の面からも

 また、社会の各分野の道義を確立することも大事です。大人の世界のモラルが崩壊して、日常茶飯事に子供がそれを目にしているもとで、子供の世界だけに道義の確立を求めるわけにはいきません。

 映像面などの自己規律の確立も大事です。日本は、世界でもっとも子供たちが無防備でいる国です。暴力やポルノは、世界では子供の目に入らない色々な社会的な規律がありますが、日本にはありません。

「自分の受けた教育をとらえ直せた。」(参加者の感想より)

  • 歴史的に見ても国際的に比較しても、日本の競争教育というのが異常なもので、そこの改善なしには教育問題全体の解決ができないという話がよくわかった。
    自分の受けてきた教育をこういう形でいったん離れてみることで、その教育のゆがみが自分に影響している面とかも考えることができて、自分と社会との関わりをとらえ直すことができてよかった。

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